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大阪高等裁判所 平成9年(ネ)2116号 判決

控訴人(被告・反訴原告) ホリ電機株式会社

被控訴人(原告・反訴被告) 株式会社エス・エヌ・ケイ

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決中、本訴請求に係る控訴人敗訴の部分を取り消す。

2  被控訴人の本訴予備的請求を棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文と同旨

第二事案の概要

一  次のとおり付加、訂正するほか、原判決の「第二事案の概要」、「第三争点に対する当事者の主張」のとおりであるから、これを引用する(ただし、本訴主位的請求及び反訴請求に係る部分を除く。)。

1  原判決七頁一行目〔知裁集二九巻三号、七一〇頁六行目〕の「甲六三」を「甲六一」と改める。

2  原判決一二九頁一行目〔同上、七六三頁八行目〕の「を請求するものである。」を次の文に改める。

「を請求し、遅延損害金については、二万個分四〇六〇万円に対する平成六年一月五日(訴状送達の日の翌日)から、一万五七〇〇個分三一八七万一〇〇〇円に対する平成六年四月一九日(同月四日付訴の変更申立書送達の日の翌日)から、二万四三〇〇個分四九三二万九〇〇〇円に対する平成七年三月二四日(同月二三日付訴えの変更申立書送達の日の翌日)から、それぞれ支払済みまで民法所定の年五分の割合による金員を請求するものである。」

二  当審において付加された主張

1  争点4について

【原告の主張】

(一) 不正競争防止法一一条一項一号の適用の有無について

被告は、被告の商品表示(特に「ネオ」、「NEO」の部分)を用途表示と主張するが、右主張は、「ネオ」、「NEO」という表示によって、本件ゲーム機を想起させることを前提とし、自他商品識別機能を有していることを自認するものであり、商品の普通名称を普通に用いられる方法で使用する場合とはいえない。

実際、「NEO」という商標が登録されており(登録第一七〇一七九〇号、登録第二〇二八四六一号)、「NEO」という表示が、記述的標章であるとか、自他商品識別力がないとはいえない。

したがって、不正競争防止法一一条一項一号によって同法二条一項一号の適用除外となることはない。

(二) 被告の商品表示の商標登録について

特許庁は、本件ゲーム機及び原告製品又は被告製品に関する取引の実情を知りうる立場になく、したがって、商品名を一般的・形式的に従前の登録商標と比較などして審査・判断するものに過ぎない。したがって、特許庁の形式的審査を経た商標権の登録が、不正競争防止法二条一項一号の不正競争行為該当性を排除するものではない。

しかも、被告が被告商品表示について商標登録の出願をしたことは、本件裁判による損害賠償義務を免れる意図に出た脱法行為というべきである。

【被告の主張】

(一) 不正競争防止法一一条一項一号の適用について

「NEO」は、「新しい」を意味する接頭語であり、「NEO」なる用語の使用は、商品の普通名称を普通に用いられる方法で使用する場合であり、不正競争防止法一一条一項一号によって同法二条一項一号の適用除外となる。

(二) 被告商品表示の商標登録について

被告は、商品区分第九類(指定商品 測定器械器具等 「家庭用テレビゲームおもちゃ」を含む)に関し、商標の構成「ファイティングスティックNEO」の商標登録出願をしていたところ、平成九年一二月二六日、特許庁によりこれが登録査定がなされた(乙九〇の1ないし3)。原告は、商品区分第九類において、「ネオジオ」ないし「NEOGEO」なる登録商標を有しており、右登録査定がなされたことにより、被告の商品表示と原告の商品表示が類似しないし、混同も生じないと判断されたこととなる。

2  損害について

【原告の主張】

(一) 被告製品の販売個数について

仮に、被告製品の販売個数合計が、原告主張のとおりでないにしても、被告製品(一)の販売個数は二万九九八〇個であり、同製品(二)の販売個数は二万四五九二個である。

(二) 販売された被告製品の一個当たりの利益について

(1)  自白の撤回について

仮に、被告製品の販売により一個当たり二〇三〇円の利益を得ている事実についての自白が、真実に反し、かつ、被告の錯誤に基づくものであったとしても、右事実の認定のために発令された文書提出命令に従わないまま、右自白の撤回を主張することは、信義に反し、かつ、時機に遅れた訴訟行為として許されない。

(2)  仮に、被告製品の販売による一個当たりの利益について自白が成立しないとしても、被告は、原審において、被告製品一個当たりの利益の算出に不可欠な文書の提出を命じられたにもかかわらず、正当な理由なくこれに応じなかったことから、民事訴訟法二二四条一項または三項により、被告製品一個当たりの利益が二〇三〇円であるという原告の主張事実が真実であると認められるべきである。

(3)  仮に、被告製品の販売価格が一個三九四四円で販売されておらず、被告の主張するとおり、被告製品を五万四五七二個販売し、その総売上高が一億九七六八万八一三五円としても(一個当たりの販売価格は約三六二二円強)、右売上高から製造販売費用(一個当たりの製造販売費用は、三九四四円-二〇三〇円=一九一四円)を控除して得られた利益九三二三万七三二七円(一個当たりの利益は一七〇八円)を下らない。

【被告の主張】

(一) 被告製品の販売個数について

平成五年八月二一日から平成七年八月二〇日までに販売した被告製品の個数は、四万五七九一個であり、平成七年八月二一日から平成八年八月二〇日までに販売した被告製品の個数は、八七八一個である。

(二) 販売された被告製品一個当たりの利益について

(1)  不正競争防止法五条にいう「利益」額とは「粗利益」ではなく「純利益」と解されるべきである。

右の利益についての主張は、法律の解釈に関する事項であるから、不正競争防止法五条にいう利益が、被告製品一個当たり二〇三〇円であったとする自白は成立しない。仮に、自白が成立するとしても、真実と異なり、錯誤に基づくものであるから撤回する(なお、原告が主張する被告製品一個当たり二〇三〇円という金額は、代金から原材料費のみを控除し、それ以外の製造原価が控除されていない金額であり、粗利益ですらない。)。

そして、被告の平均利益率は、平成五年八月二一日から同七年八月二〇日までは、一六・六〇パーセントであり、平成七年八月二一日から同八年八月二〇日までは、一六・六七パーセントであるから(乙九三の1ないし3)、被告製品を製造、販売して得た利益は、右(一)の売上に利益率を乗じた三二八三万七一八七円に過ぎない。

(2)  不正競争行為と原告の損害との間の相当因果関係について

仮に、商品表示中「NEO」の文字を使用することが不正競争防止法二条一項一号に該当するとしても、「NEO・GEO」を使用した場合とは異なり、混同のおそれの程度も低い。

また、被告の商品表示の一部である「ファイティングスティック」がスティック型のコントローラーのカテゴリーブランドとして需要者に周知されていることや、被告製品のパッケージデザインが原告製品のものと全く異なることから、混同の可能性は低い。

被告は、出版物などを通じて販売促進活動をなし、独自のブランドイメージを築き、また、他のコントローラーには存在しない「連射機能」を開発し、自己の商品に付加し、商品の差別化をなしたのであり、これによって増大した売上及び利益は、被告の商品表示の使用とは関係がない。

したがって、不正競争防止法五条に基づき算定されるべき原告の損害額は、被告が被告製品の販売により得た純利益の一〇パーセントに満たないと解される。

第三争点に対する判断

一  当裁判所も、原判決が認容した限度で、原告の本訴予備的請求を認容すべきと考える。

その理由は、争点4については、後記二、三において付加、訂正するほか原判決の「第四 争点に対する判断」に説示するとおりであるからこれを引用し(ただし、本訴主位的請求及び反訴請求に係る部分を除く。)、争点5については、後記四のとおりである。

二  原判決の訂正等

1  原判決一八四頁八行目〔同上、七八七頁一三行目〕の「本件ゲーム機は」を「右ゲーム機は、家庭用である本件ゲーム機だけでなく、業務用ビデオゲーム機も」と改め、同頁一〇行目〔同上、同頁一四行目から一五行目にかけて〕の「作られていた」の次に「従来の」を加え、同一八五頁二行目〔同上、同頁一七行目〕の「したものであり、また」を「し、本件ゲーム機と業務用ビデオゲーム機との間に互換性を備え、また、本件ゲーム機は、」と改める。

2  原判決一八八頁二行目〔同上、七八九頁二行目から三行目にかけて〕の「二一万〇二四三本」を「二万〇二四三本」と改める。

3  原判決一九二頁九行目〔同上、七九一頁二行目〕の「スペシャルテレビ番組」の前に「いずれも」を加え、同頁一〇行目〔同上、同頁三行目〕の「いずれも」を削る。

4  原判決一九六頁七行目〔同上、七九二頁一四行目〕の「本件ゲーム機」の次に「(原告製品と同一のコントローラーを含む)」を、一九八頁七行目〔同上、七九三頁一一行目〕の「コントローラー」の次に「一個」、同頁八行目〔同上、同頁一二行目〕の「原告製品」の次に「(別売コントローラー)」を各加え、原判決一九七頁五行目〔同上、同頁二行目〕及び七行目〔同上、同頁四行目〕の「ないし」をいずれも「及び」に、同一九八頁二行目〔同上、同頁七行目〕冒頭の「われる」を「われ原告製品に知名度はない」に各改める。

5  原判決二〇〇頁八行目〔同上、七九四頁一〇行目〕の「示され」の次に「『NEO』が下段中位に目立つように配置され、」を加え、同行の「やや小さく『HORI』と」を「は被告のロゴである『HORI』がやや小さく」と改める。

6  原判決二〇二頁一行目〔同上、七九五頁三行目〕冒頭の「表示され、」の次に「『NEOII』のみが二段にわたる大きさで目立つように表示され、」を加え、同行の「やや小さく『HORI』と」を「は前記『NEO』の場合と同様被告のロゴ『HORI』がやや小さく」と改める。

7  原判決二〇三頁五行目〔同上、七九五頁一四行目〕の次に行を改め、「そして右認定事実に徴すると、被告製品の表示の中で『NEO』及び『NEOII』の部分が見る者をして強く印象付け、この表示部分が『ネオジオ』、『NEO・GEO』を連想させ、結局被告製品の右表示が、外観上全体として『NEO・GEO』に類似するということができる。」を加える。

8  原判決二〇四頁一〇行目〔同上、七九六頁七行目〕の「(四)記載のとおりであり」を「(四)記載のとおり、『ファイティングスティック』と『NEO』もしくは『NEOII』が一体として表示されているうえ、『NEO』もしくは『NEOII』が大きく目立つように記載されており」と改める。

9  原判決二〇五頁五行目〔同上、七九六頁一一行目〕の「知れわたっていたことに照らせば」を次の文に改める。

「知れわたっていたこと、『ネオジオ』又は『NEO・GEO』における『ネオ』、『NEO』と『ジオ』、『GEO』とは、外観、称呼、観念において程度の差はなく(なお、『NEO』は『新しい』を意味し、『GEO』は『地球』を意味する。)、被告自身、ファイティングスティックNEOの『NEO』は用途表示であると主張していることに照らしても、需要者の間で『ネオ』、『NEO』といえば、『ネオジオ』又は『NEO・GEO』を想起させることが容易に推認されること(証人橋口貞男)、被告製品は、販売店において『NEO・GEO』のコーナーにおいて売られていて原告製品と混同されやすいこと(甲三四、検甲六の1ないし8、八の1ないし3、証人疋島義隆)に照らせば」

10  原判決二〇五頁九行目〔同上、七九六頁一四行目〕の「販売することは、」の次に「原告製品の表示の外観に類似させ、」を加える。

11  原判決二〇八頁六行目〔同上、七九七頁末行〕の「原告」の前に「前記1に説示のとおり」を加える。

12  原判決二〇九頁一行目〔同上、七九八頁四行目〕の次に行を改め、次の文を加える。

「 なお、ゲーム業界においても、『ネオ』、『NEO』の表示が多く使用されていることが認められるが(乙五三ないし五八、七二ないし七四)、本件は、被告製品を原告製品に関連付ける意図のもとに使用されたものであるから、その使用状況が異なるものというべく、右認定を左右するには至らないというべきである。」

13  原判決二一〇頁四行目〔同上、七九八頁一三行目〕の「周知であ」の次に「り被告の商号等も表示されてい」を、同頁末行〔同上、同頁末行〕の「状況において、」の次に「被告の商号の一部がロゴとして前記のとおりローマ字で『HORI』と表示されているが、人目を引き難いものであり、また」を各加える。

14  原判決二一三頁六行目〔同上、八〇〇頁三行目〕の「弁論の全趣旨によれば、」とあるのを「被告は、平成五年一一月、原告のロゴ使用の許諾を求める書面を送付していることから考えても(甲六二の1ないし3)、」と改める。

三  争点4に付加された主張に対する判断

1  不正競争防止法一一条一項一号の適用の有無について

被告は、「NEO」は、「新しい」を意味する接頭語であり、「NEO」なる用語の使用は、商品の普通名称を普通に用いられる方法で使用する場合であり、不正競争防止法一一条一項一号によって同法二条一項一号の適用除外となると主張する。

しかし、混同の有無のところで述べるように、「ネオ」、「NEO」の表示によって、需要者の間では、「ネオジオ」、「NEO・GEO」が想起されると認められるうえ、被告自身、「NEO」の部分を用途表示であると主張し、本件ゲーム機本体と関連付ける意図のもとに使用していることに照らすと、被告が、その商品表示において「ネオ」または「NEO」を使用することが、普通名称を普通に用いられる方法で使用しているとはいえない。

2  被告商品表示の商標登録について

原告は、商品区分第九類(業務用テレビゲーム機)において、原告の商品表示からなる「ネオジオ」、「NEO GEO」なる登録商標(出願平成元年一〇月三日、公告平成七年一二月一四日)を有していたところ(甲六六の2)、被告は、同一商品区分において、商標の構成「ファイティングスティックNEO」の連合商標登録出願(平成八年二月二一日)をし、平成九年一二月二六日、特許庁により登録査定がなされたことが認められる(乙九〇の1ないし3)。

被告は、そのことをもって、被告の商品表示に原告製品との出所混同のおそれがないことの証左であると主張するが、商標法上の商標の類似の判断は、不正競争防止法上の商品表示の類似の判断と必ずしも同一とはいえないうえ、特許庁における登録手続に原告が関与したことの証拠もないから、少なくとも具体的出所の混同の判断において、特許庁の判断と異なる判断がなされることがありうるといわなくてはならない。

そうすると、被告の商品表示が商標登録されたことを根拠として、被告の商品表示を使用することが、原告製品と混同するおそれがないとはいえない。

四  争点5(被告が損害賠償義務を負うとした場合に、原告に対し賠償すべき損害の額)について

1  被告製品の販売個数について

(一) 平成五年一二月に販売した被告製品(一)の個数

被告が平成五年一二月に被告製品(一)を合計二万個販売したことについては、被告は、原審における平成六年一月二一日付答弁書においてこれを認めており、当事者間に争いがないというべきである。

なお、被告は、平成八年一一月五日付の準備書面において、右販売数が一万九九〇〇個であった旨主張を変更したので、一〇〇個について販売個数の自白を撤回し、当審において、得意先別商品別売上集計表(乙九三の1、2)を提出するが、これが販売された被告製品の全てかどうかは明らかとはいえず、したがって、右自白が真実に反し、錯誤によるものとの証明に足りないので、右の自白の撤回は許されないと考える。

(二) 平成六年三月に追加販売した被告製品(一)の個数

被告が平成六年三月に被告製品(一)を追加販売したことは当事者間に争いがない。

その販売個数については、被告は九九〇〇個であると主張するのに対し、原告は、被告が二万個を製造、販売したと主張し、平成五年一〇月一日以降の被告製品(一)及び被告製品(二)について記載のある被告の総勘定元帳等の帳簿書類の提出を求めたのであるから、右帳簿書類に右主張どおりの記載があることを黙示的に主張したものというべきである。しかし、被告は、原審裁判所が平成八年一月二二日付で総勘定元帳、売掛台帳、買掛台帳、売上元帳、仕入元帳及び売上伝票の提出を命じたにもかかわらず、正当な理由なくこれに応じなかったことは訴訟記録上明らかであること、平成五年一二月の被告製品(一)の販売個数が二万個であったこと、原審における反訴に関する主張において、被告は、平成五年一二月以降、既に一万個の製造に必要な部品の調達を完了し、その後も製造を続け合計二万個を製造、販売する予定であり、被告製品(一)を平成六年二月八日までに、合計五万六〇〇〇個販売することが可能であったと主張していること、その後、被告製品(二)を販売したのは、平成六年一二月であるが、それまで、被告製品(一)の出荷がなかったとは考えにくいこと(本訴の提起により、その製造、販売計画を見直したような形跡は窺えない。)などの事実を総合すると、右文書提出命令の対象となった書類に関する原告の主張、すなわち、被告が平成六年三月に製造、販売した被告製品(一)の個数が合計二万個であったとの事実を真実と認めるのが相当である。

(三) 平成六年一二月に販売した被告製品(二)の個数

被告が平成六年一二月に被告製品(二)を合計二万四三〇〇個販売したことは、当事者間に争いがない(なお、乙九三の1、2によると、被告製品(二)は、二万四五九二個販売したことになっている。)。

(四) 被告は、当審において、販売した被告製品の個数は、全体として五万四五七二個であったと主張し、乙九三の1、2を提出する。

しかし、被告製品(一)、(二)の販売先、販売個数のみを抽出したものであるが、その提出時期、その記載状況に照らし、直ちに、これが被告製品の販売個数の全てであると認定することはできないというべきである。

2  被告製品一個当たりの利益について

(一) 原告は、当初、被告製品一個当たりの利益を三二〇〇円と主張していたが、被告は、原審における反訴において、自ら一個当たり二〇三〇円であると主張したため、原告は、右主張を援用するに至った。

(二) 自白の成否について

被告は、不正競争防止法五条にいう「利益」額とは「粗利益」ではなく「純利益」と解されるべきであるが、右は、法律の解釈に関する事項であり、不正競争防止法五条にいう利益が、一個当たり二〇三〇円であったとする自白は成立せず、仮に、自白が成立するとしても、真実と異なり、錯誤に基づくものであるから撤回すると主張する。

しかし、反訴状によると、被告は、被告製品一個当たりの純利益として二〇三〇円として主張していることが明らかであり、純利益として被告製品一個当たりの利益が二〇三〇円であったとの自白の成立を認めるべきである。

被告は、当審において、右二〇三〇円は、代金から原材料費のみを控除し、それ以外の製造原価が控除されていない金額であり、粗利益ですらないと主張するが、右主張の経緯に照らすと、直ちに信用することができない。

また、被告は、被告の平均利益率は、平成五年八月二一日から同七年八月二〇日までは、一六・六〇パーセントであり、平成七年八月二一日から同八年八月二〇日までは、一六・六七パーセントであると主張するが、右利益率は、少なくとも、被告の他の営業活動を含めた結果によるものであって、被告製品一個当たりの利益率とみることはできない。

そうすると、右自白が真実に反し、錯誤によるものとの証明もないので、右の自白の撤回は許されないと考える。

3  不正競争行為と原告の損害との間の相当因果関係について

被告は、被告商品表示による混同のおそれは低く、また、被告製品の独自の機能等が被告製品の販売に寄与したものであるから、仮に、被告の商品表示の使用が不正競争防止法二条一項一号にあたるとしても、被告の売上及び利益との因果関係は原告の主張する損害の一〇パーセント程度に過ぎないと主張する。

たしかに、被告製品には、連射機能が付加されるなど、原告製品と異なる点が存するが、右連射機能はゲームを単純化しゲームの面白さを減殺する側面があり(証人疋島義隆)、はたして被告製品の特異性が被告製品の販売に寄与しえたといいうるかは、これを認めるに足る証拠はなく、他に、被告製品の販売と原告の損害との間の相当因果関係を阻却する事実を認めるに足る証拠はない。

4  以上のとおり、被告は、被告製品の販売により合計一億三〇五二万九〇〇〇円の利益を得たものであるから、不正競争防止法五条一項により、右の額は被告の不正競争により原告の被った損害の額と推定される。

したがって、原告の本訴予備的請求中、被告に対し、右損害額の内金として一億二一八〇万円の支払を求める損害賠償請求は理由があるというべきである。

五  結論

以上によると、被告の本件控訴は理由がないから、これを棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法六七条、六一条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小林茂雄 小原卓雄 山田陽三)

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